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最高裁判所第三小法廷 昭和51年(オ)212号 判決 1976年11月30日

主文

理由

上告代理人宇野聡男、同阿部秀男、同佐藤興治郎の上告理由について

原判決は、「昭和三六年三月一七日、谷地田勇は株式会社佐々木商店から本件根抵当権及びその被担保債権(約四七〇万円)を代金二五〇万円で譲り受ける契約を結んだのであるが、自分が表面に名前を出すのは都合が悪いと称して、谷地田経営の公衆浴場かしわ湯のボイラーマンとして働いていた被控訴人を名義上だけ譲受人にしたこと、右債権、根抵当権の譲渡に関する交渉、契約書の作成、代金の支払、登記手続の依頼などはすべて谷地田が行い、被控訴人は何もしていないこと、代金支払のための資金は谷地田が出したもので被控訴人は全然出していないこと、本件根抵当権に基づく競売申立及びその後の行為もすべて谷地田が行つたもので、被控訴人は何もしていないこと(後略)」との事実を認定し、本件根抵当権に基づく本件競売申立人が右谷地田であり、上告人(被控訴人)は単にその名義人にすぎないことを認めていながら、他方においては、「本件において競売申立人たる被控訴人は前記認定のとおり、単に名義上だけの債権者、抵当権者にすぎないから、自ら競売物件を競落し、競売手続を完結して所有権移転登記を経由したけれども(中略)、競落物件の所有権を取得することはできない」旨判示している。

そうすると、原判決の右判示には、本件競売申立人を、一方において谷地田勇としながら、他方においてこれを上告人と認めた理由不備、理由齟齬の違法があるか、あるいは、債権者、抵当権者が他人名義で競売を申し立てたということから直ちに、当該競売手続がすべて無効となり、競落人は競落物件の所有権を取得することができないと速断した違法があるものといわなければならず、右違法は本請求についての原判決の結論に影響を及ぼすものであることが明らかである。

原判決には右のような違法があるから、原判決の事実認定が違法であるかどうかに関する所論についての判断をするまでもなく、原判決中本請求に関する部分は破棄を免れないところ、右債権、抵当権の譲受人が上告人であつたか谷地田であつたか、競売申立人を上告人とした経緯及び右経緯が競売手続を無効とするものであつたかどうか等について更に審理を尽くさせるため、本請求について本件を原審に差し戻すのを相当とする。

(裁判長裁判官 天野武一 裁判官 江里口清雄 裁判官 服部高顕 裁判官 環 昌一)

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